第70章

田中辰哉はドアが開く気配を聞きつけても、振り向かなかった。腕の中の人をそっとベッドへ寝かせ、ようやく身を翻す。

「用か」

あまりに落ち着き払った態度に、田中尚哉はかえって興味をそそられる。

「まさかここで兄貴に会えるとは。しかも女連れ? こりゃ兄貴も、いよいよおめでたいんじゃない?」

田中辰哉が意味ありげに一瞥する。

「俺にとっては“めでたい”かもしれんが、お前にとっては違うだろうな」

「どうしてです? 兄貴が幸せになれるなら、俺も嬉しいですよ」

尚哉は笑っているが、目が笑っていない。

「未来の義姉さんってことなら、一度顔を見せてくださいよ。挨拶くらい、しておきたいし」

田...

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